魚の眠り

眠る魚

 人間にとって、いちばん耐えられないことは眠らないことだという。食事は一回や二回、いや一日や二日抜いても水さえあれは生きていられる。山で遭難して、数日間なにも食べずにいたが救出された、という話は珍しくない。
 しかし、三旦二晩一睡もせずにいるということは、普通の人にはまず出来ない。

 魚も同様だ。といっても、きまった時間だけ眠って体を休めなければならないということではない。しかし、とにかく眠ることは眠るようだ。ただ、たいていの魚には目にまぶたがないので、眠っているとき目をつぶらないため、眠っているのか、起きているのか判別しにくい。もちろん、いびきをかいたり、寝言をいうわけではないし…。



 イギリスの学者が水族館で観察した記録によると、人間と同じように魚にも夜型、昼型があるそうだ。チョウザメ、トラザメ、ハタ、カレイ、ヒラメ、アメリカ産のナマズ、デンキウナギ、アナゴなどは昼間眠って夜活動し、コイ、マス、アナパス、エンゼル・フィッシュや多くの磯魚は、昼間は活動していて、夜になると岩陰などにひそんでじっとしている。

 ところで、磯に住む魚は岩陰などに夜じっとしているということは想像できるが、イワシやサバやカツオなどのように、いつも海の表面近くを泳いでいる魚は、いったいどうしているのだろうか。この点については、時間をきめずにときどき眠るのだろう、という推測しか現在ではいえないようである。

 魚の睡眠には、このほかにもおもしろいものがいろいろある。磯に行けばいつでも見ることのできるベラの仲間がそうである。ベラの仲間は、なかなかしつけのいいまじめ魚で、日暮れから翌朝の太陽の昇る四十分くらい前まで、毎日きちんと規則正しく眠る習性をもっている。それもちょうど布団にもぐるように、砂の中に体をかくして眠ってしまう。もっとも、時に行儀の悪いのがいて、頭だけ出したり、尾っぽを出したりして眠っていることもある。
 だから、ベラを飼った人、とくにそれがサラリーマンだったりすると、完全に生活のリズムが狂ってしまって、とんだ悲劇が起こってしまう。というのは、飼主が会社に行っている間は、ベラが水槽の中を元気に泳ぎまわり、主人が帰宅したころには、ベラは砂の中の布団にくるまって寝てしまっているというわけだ。飼主はせっかく飼っているのにべラを見ることもできないし、飼主が独身だったりしたら、ベラはえさ餌ももらえないというはめになってしまう。
 こういうことは、水族館でもしばしば起こる。新人の飼育係が、昼間見回ったときには水槽いっぱいに乱舞していたベラが、夜、点検に見回ったら一尾も姿が見えないので、あわてて腰を抜かしてしまった、という話もある。